『完璧な梱包』
ネットオークションで連日高い評価を得ていた私に、
いきなり「残念な梱包でした」というコメントと最低点がつけられた。
梱包に絶対的な自信を持っていた私は、取引相手の勘違いか悪戯のどちらだと思った。
しかし100%不備がなかったとは言いきれないので、
取引相手に何が問題だったのかメールで訊ねてみることにした。
日付けが変わらないうちにメールは返ってきた。
「あなたの梱包には愛がない」
短い上に、抽象的すぎて何が言いたいのか分からない。
「もっと具体的に説明していただけますか?」
我慢強くメールを送っても、返ってくるのはいずれも同じような内容だった。
「梱包とは小宇宙の創造です」
「包まれるのは自分でもあるということをお忘れなく」
「梱包にこそ想像力は不可欠なのです」などなど。
不毛なやり取りの末に、とうとう私の忍耐は限界を超えた。
「そんなに偉そうに言うならおまえがやってみろ」
「いいでしょう。数日中にお送りいたします。中身は何にいたしましょう?」
「なんでもいいから早くやれよ。口先野郎」
三日後、デスクトップパソコンが入るくらいのダンボール箱が届いた。
「ふん。これが人を罵倒できるほどの代物なのかね」
箱を揺すってみると、中身がズレるような感触が少しもない。
癪ではあったが、一体どういう梱包がされているのか気になった。
テープを引き裂いて蓋を開け放つ。
半裸の男が昆虫のさなぎのように、箱の内側にテープで固定されていた。
瞼がパチリと開き、男の口元がリリカルに歪んだ。
私はとっさに蓋を閉め、ありったけのテープで箱をぐるぐる巻きにした。
二度と開かないように封印する。
完璧な梱包を済ませて、私は燃えるゴミの回収所に向かった。
〜おわり〜